ラルフ・ロイル

『エチュード・ミュージック・マガジン』の年記不明の表紙右下に、手描きの大文字二行で「RALPH ROYLE」と読める署名が、文様入りの敷物の淡い地の上に置かれている。翻字に曖昧さはない。 図版は、藺草張りの椅子に腰かけた赤毛の男が青いスーツ姿でトロンボーンを吹く姿を描く。頬をすぼめ、目は前方の譜面台に据えられ、そこにはモーツァルト『魔笛』の楽譜が載る。背後にはバスドラム、チューバ、メトロノームが空間を埋め、椅子の下では小さな白いテリアが前足で耳をふさいで伏せている。壁にはベートーヴェンともう一人の作曲家の額装肖像、棚には胸像、そして通信音楽学校の修了証が掛かる。出版元がまさにその業種を営んでいたことを思えば自己言及的な細部である。敷物の上には楽譜が散らばる。 描法は学院的かつ調子を重んじる。形態の肉付け、一貫した光、布・真鍮・木材の丹念な描写、そして耳をふさぐ犬の喜劇的な間合いが、様式化ではなく観察に基づく描写だけで担われている。本作は、当館所蔵の1920年代後半の『エチュード』表紙に見られる平面的な図案様式ではなく、アメリカの物語的雑誌挿絵の伝統に属する。 記録は存在しない。この名の図案家はアメリカ商業イラストレーションに関する標準的な参考文献に見当たらず、誌面内の表紙画 credit 表記も確認されていない。国籍、生没年、修学歴、作品の総体はいずれも未記録である。 The Record Institute は、人物の同定を主張することなく、この署名を記録する。

Nationality: undocumented